2014/08/04

Jinmenusagi ロング・インタビュー前編「空っぽのキャリア」

Jinmenusagi ロング・インタビュー前編「空っぽのキャリア」

文・構成/川島大地

2012年のデビュー以来、メディアの宣伝力に頼ることなくその圧倒的な制作力とスキルのみで
着々と知名度を上げていったJinmenusagi(ジンメンウサギ)。
苦節を経てようやくブレイク寸前といったところまで上り詰めた彼だが、
先述のとおりメディアへの露出が極端に少なく、何かと謎めいた部分が多い。
出身はどこなのか?年齢は?ここまでの軌跡にはどのようなストラグルがあったのか?
そもそも彼が本当にやりたいこととは何なのか?
今回はこれらの疑問を紐解くために、徹底解剖型超ロングインタビューを敢行。
期待度の高まる4thアルバムの情報や、過去のリリース作品にまつわる秘話に迫った。
さらには社会現象や人間の内面についての、彼特有のトゲありまくりな意見も・・・?



昨年度の彼のアーティスト写真。彼いわく「Tシャツの襟が少しズレてるから恥ずかしい」とのこと

まず、軽く自己紹介をしてくれる?

Jinmenusagi(ジンメンウサギ)。ラッパーとビートメイカー、両方やってる。
所属はLOW HIGH WHO?で、歳はもうすぐ23。生まれも育ちも東京都。こんなかんじかな。


東京都のどこ?

千代田区。生まれたのは府中だけどすぐ千代田区に移って、もう20年くらいずっと住んでるよ。まぁ俺がっていうより親が、だけど。


こう言っちゃ悪いけど、あそこに人が住んでるイメージなかったよ。

いるっちゃいるよ。昼間はリーマンと学生でごったがえしてるけど、土日とかはすごく静かだね。所在不明のハイソサエティジジババが多くて嫌味なとこだよ。


(笑) そんな場所で、ウサギくんがラップを始めた理由って?

そこらへんのラッパーと似たような感じだからつまんないよそこ。エミネムを聴いて、8mileを見て、ハマった(笑)
実際に自分でもトライするモチベーションをくれたのはRUN DMC。あと、BEASTIE BOYSかな。アルバムほとんど持ってる。



それすごく意外!クラシックだね。

そう?RUN DMCの曲のリズムだけコピーして、日本語に当てはめてリリック書いて遊んでた。
それを携帯のボイスレコーダーに録って、自分の声ってこんななんだぁ~とか思ってた(笑)
あとはその頃のインターネットヒップホップ遊びにネットライムっていうのがあって。そこで知り合った仲間と、これまた携帯のボイスレコーダーで録ったフリースタイルを聴かせあったり・・・それが14、5の頃かな?



ネットライム懐かしい(笑) 初期衝動だなー。その頃、他には何かしてた?

高校生のときLINKIN PARKを知ってハマって、すぐにあんなかんじのバンドを組んで。
そこでラップを担当してた。クソダサかったけど。小節の数え方も知らなかったし。
そのくらいの時期はヒップホップよりメタル聴いてたかな。MUDVAYNE、THREE DAYS GRACE、SLIPKNOT、CHILDREN OF BODOMS、STATIC-X、LIMP BIZKITとか・・・
でもサイファーを主催したり、早稲田のギャラクシーに歳ごまかして遊びに行ったりとかもしてたよ。それが16、7歳くらい。


話を聞くとフリースタイルとかも結構やってたんだね。ウサギくんってどっちかっていうと音源に力を寄せてるイメージがあるけど。

流行ってたし、「MCバトルが好きな歳」だったからね。今は全っ然興味ない。

http://cdn.albumoftheyear.org/album/to-the-5-boroughs.jpg
彼のフェイバリットなビースティーズのアルバムは「トゥ・ザ・5ボローズ」だそうだ。
ジャケットと内容のシンプルさがツボらしい。


本格的に音源を作るようになったのっていつ頃?

えっと。さっき言ってたバンドのみんなで金を出し合ってMTRを買って。
俺の家に置いてあったんだけど、それで勝手にラップ録りまくって遊んでた(笑)



ラップで遊ぶのが基本的に好きなんだね。好きこそものの上手なれってやつか。

(笑) でもそのうちビートが全然足りなくなって、既存曲のインストとかじゃなくて、
ラップが乗ってないオリジナルのビートないかな?ってネットで探し始めたんだ。
それでニコラップを知って、自分もやり始めた。みんな名前は知ってると思うけどネットラップってやつ。



あ、それ・・・話していいの?

大丈夫。あ、いや、言いたいことは分かるよ。完全に黒歴史だけど、あえて触れるよ。


じゃあ、いいか(笑) ニコラップ含むネットラップでのキャリアについてざっと説明してくれる?

いいよ。えーとね。要するに、特定のサイト上をフィールドにして、曲を作ってアップしてた。
バンドのほうは、みんな住んでる場所が遠くて中々集まれなくて・・・そっちのほうがメインになっちゃった。地元にラップ好きなやつもいなかったからなー。
2008年から2010年くらいまで集中してやってた。今の人間関係はそこで知り合った人たちが基礎だね。


今はどうだか知らないけど、当時のそれって超アングラ文化だよね?

そういえば聞こえはいいけど完全にステレオタイプなネクラとオタクの遊び場だったよ。
クラブじゃなくてわざわざネットを選ぶんだから・・・でもたまにそれ以外の人も紛れてて面白かったな。俺自身はネクラのほうで、どんどんのめり込んでった。病んでたと思う。



できれば、良い部分を言ってよ(笑)

良い部分・・・不特定多数からレスポンスがもらえる、タダで使っていいビートがいくらでもある、暇つぶしには最高、ってとこかな。俺もそういうとこが好きでやってたし。
けど最近はBandcampとかSoundcloudとか、他にも色んなサイトで自主配信できる時代になったから、ネットラップ的なムーブメントは別に特別なものじゃなくなったと思う。



フリーダウンロードでのリリースも増えに増えて、追いきれないよね~。

今はみんな大体ネットでプロモーションしてるでしょ。
Soundcloudに曲をアップしてTwitterで宣伝して、YouTubeにアップしたPVをFacebookで宣伝して・・・オタクとネクラだけがインターネットをしてる時代じゃなくなったから当然の変化だと思うんだよね。
これ、散々色んな場所で言ってるし言われてるし、皆もそういう認識だって信じたいんだけど。それでも未だに「ネットはオタク、現場はクラブ」みたいな考えが見え隠れするの、キモいよね。



サブカルチャーのイメージが拭えないんだろうね。

いやいや!サブカル自体ここ数年で完全にオーバーグラウンド化したってのに、それでもなおかつネットとかパソコン使うのがダサいって思うんならもう二度とエロサイトでシコるなって思うし、二度とインスタグラムに昼飯の写真あげんなって思う。みんな電車での移動中と家では絶対ネットやってるんだよ。
でも、エゴRTしまくったり、無意味なハッシュタグばっかりで自己主張するTwitterの使い方もキモいなって思う。



怒ってるの?(笑) そのへんは後でまとめて聞くから、とりあえずは時系列で話してこうよ(笑)

ああごめん。すぐイライラしちゃうんだよね。
散々言っちゃったけど、俺だって完全にネット文化の味方ってわけじゃないよ。
ネットラップだって、ネット「だけ」でやってる人は変なプライド持っててダサかったし。プレイヤーもリスナーも頭おかしくてなんとなくイヤになって、しばらくやめてた。
ノルマを払ってライブする「現場活動」って行為もちょっとやってたけど、それも肌に合わなさすぎてやめた。
このくらいの時期から「ネット」「現場」「リアル」とかそういう類の言葉に拒否反応出てきたね、めんどくせーなって。



今のレーベルに所属したのって、そのくらいの時期?

そう。ネットに転がってた音源をLOW HIGH WHO?のParanelさんが聴いてくれて、誘ってくれた。というより拾ってくれた(笑) 2011年の9月だったっけ。
そこの人はみんな、ネットもリアルもなくフラットに音楽を見ていて・・・俺自身もラッパーってよりアーティストとして扱ってもらえたから、最高だった。



そこからインディーズ・デビュー、怒涛のリリース攻撃が始まる、かな?

リリース攻撃ね~・・・2012年の2月にファーストアルバムをリリースしたんだけど・・・ネガティブに言い換えれば、そこからは前のアルバムを売るために新しくアルバムを作るっていう作業の繰り返しだったかな~。
もちろんテーマやメッセージはその都度あったし、単純に曲を作るのが楽しみだったし、一定数のリスナーもいたけど、結果的にはそうなってた。
先行する話題もないままリリースしちゃったから、1stアルバムのインパクトは早々になくなったし、レーベルの方針もあってメディアへの無駄な露出もなかったし。マジで注目されなかった。

これは2ndのリリックでも出てくるけど、服が何着か買えるレベルの売れ方だったかなー。
ただ、これは自分でも自信あるんだけど、技術的な面では常に最先端だったし、そういう面を地道に認識してもらうことによってコネクションを増やしていった。
そうしたら段々話題がついてきた。



うんうん。ライブも頑張ってたし、リリース毎に確実な進化があったり、
旬のビートジャックでそのスキルを見せつけたりしたのも原因のひとつだよね。

てか、また話を逸らして悪いんだけど(笑)
今の音楽シーンって本当に「話題」がないとダメなんだよね。作品プラスなんらかの話題がないと取り上げられない。
俺は今年23歳で、社会的にはまだ若いけど、アーティストとしては話題になるほどの若さじゃないから。
ガワも良いわけじゃないしマジで技術面の他に何も無いんだよね。で、それでどうなるかっていうと、バズらない。
聴けばレベルの高さは分かってもらえると思うけど、目を引くような情報が無いからまず聴かれない(笑)
そもそも、リスナーが音楽を選ぶ基準において技術面なんてほとんど意味が無い。逆にみんなが技術・話題・音楽センスとかの要素全てを相対的に見てアーティストを評価しててもクソつまらなくなると思うけど・・・
とにかく、2013年くらいまでは話題にならないまま「空っぽのキャリア」だけが積み上がっていったね。



でもウサギくんは、今年の初めにあった #FightClubJP 騒動でめちゃくちゃバズって、話題をさらったでしょ。

アレは結局、自己顕示と他人の悪口で構成されてる曲だから人のためにならない。
あの曲が好きって言われると反応に困る。



(笑) そういうことじゃなくてさ。

ごめん(笑) ちゃんと説明する。すごく簡単にまとめると、MOMENTっていうラッパーが日本のラップ・シーンに対して、KENDRICK LAMARのCONTROLみたいなことを仕掛けたんだよね。
ディスではなく挑発ってスタイルで、ネームドロップをした。みんなもっと切磋琢磨しろよ!っていう。
それに対してのアンサーって形で、色んなラッパーが曲を出したんだよね。
ネームドロップされた人もそうじゃない人も巻き込んで、大きいムーブメントになった。それが #FightClubJP だね。
もともとMOMENTは友達だったし、そういう曲を発表してガラパゴス化しつつあるシーンを活性化させたい!っていう話も聞いてたから、ソッコーでアンサーを書いて録って、Soundcloudにアップした。


#FightClubJPについてはこちらの記事のほうが詳しい流れと背景を理解できます⇒ラッパーMOMENT日本に落とした爆弾 "#FightclubJP" その1


あそこから一気にウサギくんの注目度が上がったよね。

まぁ・・・言いたいことも言ったし、バズったし、結果的には良かったとは思うけど、あんな曲で注目するくらいならアルバム聴いてくれってかんじ。


だからこそ次回の4thアルバム、話題も技術も脂が乗り切った状態で発表できるんじゃない?

そうだね。 #FightClubJP だけじゃなくて、yanatakeさんが俺を気に入ってくれて、block.fmの日本語ラップ番組の「JPz Comin' Through」とか、TBSラジオの「タマフル」でパワープッシュしてくれたおかげで今なお知名度が上がってる状態だし・・・ベストなタイミングだと思う。MOMENTとyanatakeさんが僅か1ヶ月にも満たない間に、俺のラップ人生を変えてくれたよ。めっちゃ感謝してる。してます。



それは直接本人に言ってよ(笑) 4thはどんな内容になるの?

まだなんともいえないけど、映画を作ってる。


え、どういうこと?比喩?

もちろん比喩で。そのうち分かると思うからまだナイショにしておくよ。
現時点だとまだ不確定要素もあるから・・・とりあえず、ガンガン制作中!



映画ってだけだと抽象的すぎるよ!ストーリーものってこと?

そんなかんじ。アルバムを通してひとつの物語になってる。
KENDRICK LAMARの「good kid, m.A.A.d city」が近いかな。俺はコンプトンの生まれじゃないから、もちろんメッセージは違うけど。



客演とかには誰を呼んでるとか、教えてもらえる?

まだ言えないかな。それに、いわゆる「日本語ラップ」のリスナーの人が聞いた瞬間に「マジで!?」ってなるような人選はないよ。
・・・いや、かなり語弊がある言い方だから訂正するね。ラッパー、ビートメイカー、あとシンガー、全員めちゃくちゃやばいよ。皆が触れたことの無い種類の新しい才能を取り込んでる。これで伝わるかな。


もちろんウサギくんの考え方は理解できるけど、ネームバリューのある人とかを
客演に呼んで・・・っていうのが普通っていうか、よくあるやり方だと思ってたよ。

ってか、客演をエサにするのって意味なくない?その本人にも失礼だし。
そこ目当てで多少はセールスが伸びたとしても、自分のブランド力は高まらないし、波及しないよね。
それだったら、自分の周りだけで完結させたほうが、物理的にも精神的にもいいものが出来るって俺は知ってるから。
やりたい人とやりたいタイミングでやれた。それがたまたま今回のアルバムだった。ってだけだね。



内容重視ってことだね。これは期待できるね!

今までに3枚リリースしてるけど、今回新たに出すのが一番内容としてまとまってると思う。
まぁこれは出すたびに言ってるんだけど(笑)
できれば全部聴いてもらいたいな。そうすると俺がどういう道を歩んできたのか分かるよ。
スキル的にも、考え方的にも・・・いろんな面でね。


(後半に続く)

1 件のコメント:

  1. 興味深い内容で楽しく読むことができました。本人のルーツから現在までの軌跡、そして楽曲や趣味・嗜好の詳説まで。Jinmenusagiというラッパーを知ることができて大変面白かったです。

    Jinmenusagiさんは、ファンである私の贔屓目を差し引いても、もっと話題になっていいはずのミュージシャンだと思いますね。とにかくフロウの変遷が大胆で聴いていて飽きないです。一箇所にとどまらず、常に流れているから本当に面白い。それも、ただ奇抜なだけではなく、基本を大事にしたストレートなラップが根幹にあるので、純粋なラップ好きの心に素直に響きます。また、暗くて攻撃的な内面の吐露も毒っ気があって非常に刺激的です。(もちろん褒め言葉です)

    たまに斬新さやアバンギャルドを勘違いし、基本をすっ飛ばしている奇抜なだけのラップを耳にしますが、ああいうのは論外です。しっかり経験を通してから言うのと、そうでないものとでは、よほど素晴らしい発想や才能の差がない限り、やはり前者の方が強い説得力を内包しているでしょう。その点で1stアルバムは大きな過渡期(あくまで過渡期)でした。

    売れ方については様々な意見があると思います。ご指摘の通り、現在は情報によって情報が埋没しやすい情報社会です。従って純粋な技術力よりも、キャラなどの二次的な魅力や、いかに目立つかのプロモーション(いわゆる個性)が重視される傾向にあるかもしれないですね。ネットの普及により、世間における個人化・個性化の推進が更に具体的になっているといいましょうか。昨今、話題になっている方達を見ると、その風潮を以前より遥かに強く感じます。

    Jinmenusagiさんは、画策(ビジネス上、失礼な書き方かもしれませんが)せずに正攻法で勝負することにこだわっていますが、せっかく長年培ってきた技術と素敵な才能をお持ちですので、まずは一旦聴いてもらう為のプロモーションに注力してみるのもいいかもしれません。もちろん世間一般での極端なセルアウト(露骨な売れ線狙い)という意味ではなくてです。それこそ聴いて貰えなくては始まりません。外野から余計なお世話だとは思いますが。

    僭越ながら、そういった点に目を当て、独自に考えてみるという意味でも、今回は有意義なインタビューだったと思います。風向きが変わり、少しずつチャンスが巡ってきている今、Jinmenusagiさんにとっては大事な時期でしょう。けれど、どうか気負い過ぎずに頑張って下さい。心から応援しています。

    【最後に】
    話は変わりまして、後半のインタビューについてなんですが、こちらはしばらく掲載しないのでしょうか。勢いよく読んでいただけに、最後まで読めないのが残念でなりません。

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